コラム

おしごと時々手製本 「押す」

営業部

「活字」…活版印刷の際使用する凸型の字型。金属などの立方体のひとつの面に文字の形を左右反対に浮き彫りにしたもの。(参考:Wikipedia)
 先日趣味の一環で、活字屋さんと箔押し屋さんに行く機会がありました。今回はその時のおはなしを少ししようかと思います。
 ワープロやパソコンが普及し始めたころから、需要がなくなってしまった「活字」。これが主流だったころには都内に20社ほどあった活字屋さんも、現在では3社しかないとのことでした。見学した活字屋さんのご主人は80歳を超えたかなりご年配の方で、特に跡取りは考えておらず、自分の代で閉めるとおっしゃっていました。ご主人曰く、「趣味で続ける分にはいいけれど、これを商売にしていくとなるととても難しい。」とのことでした。依頼は古くからお付き合いのあるお客様がいくつか残っているのみ、名刺や、年賀状、喪中はがきなどが多いそうです。

 活字は木箱に収められ、それが縦型の引き出し式になってしまわれていました。見た目ではそれほど重くなさそうですが、驚くほど重く、またその量も膨大です。1つのサイズで約8,000個の活字があるとのこと。ここから探すのは至難の業のように思われますが、ご主人は迷うことなくすごいスピードで拾っていました。
 拾いだした活字は職人の感覚で文字間はバランス良くととのえられました。なるほど、活字を1つずつ拾い出して版を作った後で、少し変えたいので修正して下さい、とは昔では考えられなかったことが納得です。

211213-1211213-2良い機会なので活字を購入しました。  活字屋さんで購入した活字は箔押しの時にも使えます。私は購入した活字では箔押しはしませんでしたが、革製のカバーに、購入した活字で名前を入れている人もいました。
 箔押しは体験をすることができ、クリスマスのグリーティングカードを作らせてもらいました。作業を見ているとレバーを下して上げての繰り返しだったので、簡単そうに見えました。しかし、レバーを下す勢いや上げるタイミングで、文字が潰れたりかすれたりしてしまうため、職人の技術と経験の凄さをここでも感じざるを得ません。
 実際に自分の持ち物に箔を押したのは職人さんでした。位置を合わせたり版を作ったり、ものすごく細かく丁寧な作業で、何をどう確認しているのか解らない、いろいろな確認作業を経て押された物が上の写真右で、来年の手帳です。(ちなみにこの手帳は100均で購入し角背の上製本に仕立て直しました。花布も手作りです。)年号もイニシャルも入れて、たった一つのオリジナルの手帳を作ることができました。

 活字屋さんも箔押し屋さんもとても素晴らしいところでした。特に活字屋さんでは、昔の印刷の技術を目の前で見ることができ貴重な体験でした。印刷の会社に努めてはいても、なかなかこういったものを見たり触れたりすることはできません。改めて活版印刷の美しさについても考えました。今はアートとして若い方にも需要があるようですし、どんな形にしろ、残ってくれたらいいなと思いました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加